前置胎盤
紀子さまの帝王切開術の時に話題となりました「前置胎盤」についてです。
前置胎盤とは?
一般的に受精卵は子宮底部近くに着床することがほとんどです。
子宮の一番奥の方ですね。
着床した部分に胎盤が形成されます。
胎盤の位置が通常よりも低く、胎盤が子宮の入り口に被さり、ふたをしてしまっていることを前置胎盤といいます。
子宮の入り口(内子宮口)をふさいでいるので通常の出産ができなくなります。
胎児にとっては出口が胎盤でふさがれているわけですからね。
基本的には帝王切開で胎児を出すことになりますが、
いろいろな合併所が多いのも前置胎盤の特徴です。
胎盤がどのくらい内子宮口をふさいでいるかで3つに分けられます。
1.全前置胎盤(完全に内子宮口をふさいでいる、もっとも重症のタイプ)
2.部分(一部)前置胎盤(ほんの少しだけふさいでいるタイプ)
3.辺縁前置胎盤(内子宮口に胎盤の端っこがかかっているタイプ、軽症になります)
紀子さまのときは「全前置胎盤に近い部分前置胎盤」と報道されていたようですね。
前置胎盤ではないのですが、出産に際しては注意が必要な「低置胎盤」というのもあります。
低置胎盤は通常の出産も可能ですが、出血が多くなる可能性が高くなります。
低置胎盤は胎盤の端っこが内子宮口から2センチ以内くらいの状態です。
何事もなく出産となることも多いのですが、やはり注意は必要になります。
前置胎盤はどうしていけないの?
前置胎盤が異常妊娠の範疇にはいるの次のような理由があります。
1.正常な経膣分娩が困難であること
2.妊娠中に大出血を起こすことがあること
3.癒着胎盤などの合併症があること
子宮頚部近くと子宮体部では子宮の構造に違いがあります。
子宮頚部は妊娠週数が進むとのびてきます。
この部分に胎盤が乗っかっていると子宮の壁と胎盤の接しているところに物理的にずれが生じて胎盤から出血を起こします。
大切な胎盤からの大量の出血は母児ともに危険な状態にしてしまいます。
正常な子宮内膜の表面に着床し胎盤を形成します。
胎盤は子宮内膜が脱落膜に変化したところまで血管の根を下ろしているのが一般的です。
着床が下の方になると(子宮頚部近く)内膜が薄く胎盤の血管が子宮の筋肉や子宮頚部本体まで到達してしまう可能性が高くなります。
胎盤はお産後簡単にはがれて排泄されるものですが、それががっちりと子宮の筋肉に食い込んでいると簡単にははがれてくれません。
この状態を癒着胎盤といいます。
前置胎盤は癒着胎盤を合併していることも多く、産後の大出血の原因となります。
前置胎盤がハイリスクなのは妊娠中、出産中、産後とあらゆる時期で十分な注意が必要となるからなんです。
前置胎盤になりやすい人はいるの?
前置胎盤になりやすいリスク因子がいくつかあります。
1.初産婦より経産婦
2.帝王切開の既往、人工妊娠中絶術の既往、子宮筋腫核出術など子宮の手術歴
3.多胎妊娠、胎盤の形態異常
4.喫煙、高齢、前置胎盤の既往
妊娠や出産、手術操作により着床部位の子宮内膜に、炎症が起こったり、固くなったり(瘢痕化)し損傷が生じて、ちゃんとした着床部位が減少するために相対的に子宮の下の方に着床する可能性が高くなると考えられます。
特に帝王切開の回数が増えるほどその頻度は増えてゆくのは事実です。
人工妊娠中絶術も回数が多くなると子宮内膜の炎症や瘢痕化がすすみ前置胎盤はもとより不妊症の原因となったりもしますね。
多胎妊娠は胎盤の数が多く胎盤の占める面積が増えて、子宮下部に及ぶこともあります。
また副胎盤などの胎盤の形態異常もリスク因子となり得ます。
喫煙により子宮の血流障害が生じて正常な着床を妨げているのではないかと考えられています。
非喫煙妊婦と比較して1.5倍の頻度となっています。
統計的には高齢となるとその頻度も上がるようです。
当然前置胎盤の既往があると確率は高くなります。
前置胎盤の症状は?
典型的な症状は、妊娠中に起こる痛みのない突発的な性器出血です。
最初は少ない量の出血がありますが、これを「予告出血」や「警告出血」と呼んでいます。
この後に大出血が発生する可能性があります!
前置胎盤は胎盤が子宮の下の方にあるので、胎児の頭が骨盤の中に入り込めなくて高い位置に胎児が存在するようになります。
そのため、骨盤位などの胎位の異常も起きやすくなります。
前置胎盤の診断は?
内診という行為は産婦人科にとっては基本中の基本の検査です。
しかし、前置胎盤の可能性がある場合は内診による診断は禁忌となっています。
指でソフトな胎盤の裏側をこすると大出血をするからです。
胎盤の位置を超音波検査で確認することで診断は比較的容易です。
妊娠初期は胎盤の位置が低く見えても、子宮の増大とともに胎盤の位置が上方へずれてゆく現象があります。
(実際に胎盤が自分で移動するわけではなく、子宮の頸部が伸びてゆくためそう見える現象です)
そのため、あまりに早い時期に評価すると不正確な評価になります。
妊娠21週〜24週以降まで待って胎盤の位置を確認する必要があります。
特に威力を発揮するのが経膣超音波検査です。
胎盤のかかり具合や方向、周囲の血管の状態などを詳しくチェックします。
分娩前、もしくは手術前に前置胎盤に癒着胎盤が合併していないかどうかを調べることは完全にはできないと言われています。
子宮の筋肉にがっちりと食い込んでいる胎盤は診断もしやすいと思われます。
しかし、わずかに癒着している場合はどのくらい出血するのか、どのくらいの力で剥離することができるかは実際にその場ではがしてみないとわからないこともあります。
もちろん少しのきっかけで剥離がスムースに進むこともありますが、そうでないと大出血を誘発することもあり、なかなか難しいところでもあります。
前置胎盤に癒着胎盤の合併が疑われるときはMRIなどの検査が行われることもあります。
前置胎盤の治療は?
出血があれば入院管理となります。
安静と必要に応じて子宮収縮抑制剤を投与して出血を防ぎます。
出血がない場合は外来管理が行いますが、出血の可能性を十分に説明し緊急入院がいつでもできるように準備をしておきます。
出血がなくても妊娠30週頃には安静目的で入院管理を行うことが多いですね。
分娩はほとんどが帝王切開術になります。
出血が多くなければ可能な限り、胎児が体外生活が可能な時期まで妊娠を延長します。
妊娠経過中に大量出血となった場合は緊急の帝王切開術が行われます。
臨月まで出血がなく経過した場合は日時を決めて予定帝王切開術を行います。
大量出血に対する準備として自分の血液をあらかじめ採取し保存しておく自己血貯血が行われます。
しかし、自己血輸血だけでは足りないことが多いので十分な量の輸血の確保は必須です。
癒着胎盤が高度で剥離困難であるときは、胎盤をそのまま残し抗癌剤などで胎盤を縮小させる方法もあります。
また剥離はできても、その後止血困難な場合は救命目的の子宮全摘術などを止む得ず行うこともあります。
前置胎盤は非常にリスクが高く、産科医、麻酔科医、小児科医と沢山のスタッフも必要です。
クリニックなど小さな個人病院では対応ができないので大きな総合病院での対応となります。


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