染色体異常
先天異常と染色体異常
先天異常と染色体異常、この二つはイコールではありません。
先天異常とは「出生する前から何らかの異常を持った状態」で以下のように沢山の原因があります。
染色体異常はその原因のひとつにすぎないんです。
・単一遺伝子病
・多因子性疾患
・染色体異常
・胎芽病
・胎児病
・外因による胎児異常(薬などによるもの)
産科の外来で「赤ちゃんに先天異常はありませんか?」と聞かれることは多いです。
「大きな異常はなさそうです」とお答えしますが、「100%ですか?」と聞かれると「それはわかりません」とお答えをせざるを得ません。
実は超音波検査で分かる異常は限られています。
わかるのは大部分が形態的な異常、しかもかなり大きな異常ですね。
何を異常と取るのかによって違いはありますが、生まれた後にずいぶんたってから分かってくる異常もたくさんあります(精神発達の異常など)。
そうすると、ほんとは「大丈夫ですよ」とはいってはいけないのかもしれませんが、あまり厳密に「こんな異常があり得ます」などいうととても不安になりますよね。
皮膚の上から針を刺し、羊水を採取し検査する「羊水検査」ももちろん万能ではないんです。
これは先天異常をすべて検査しているのではありません。
ごく一部の異常を検出しているにすぎません。
「羊水検査では正常と言われたのに生まれて奇形が見つかった」という場合も十分にあり得ることです。
染色体異常の種類
人間の設計図(染色体)は46本(23本×2)で構成されています。
人間をマンションの建設に例えてみます。
厳密にいうとうまく説明できないところや表現の不備があるかもしれませんが、ご勘弁を。
マンションの一棟を建設するのに、46枚の設計図が用意されている仮定します。
既に完成しているマンションを二棟とそれぞれの設計図があります。
この二つのマンションは土台、骨組み、内装、エレベーターの数、配管や配線の位置などは一緒ですが、外壁のデザインが一方はピンク(女性)でともう一方は青(男性)とします。
このマンションの設計図を半分に分けて、持ち寄り、合わせて新しい46枚の設計図をつくります。
さてこの新しくできた46枚の設計図をもとに新しいマンション建設が始まると仮定します(胎児が発生します)。
この設計図の根本的な部分が間違っていると建築許可がおりずにマンションの建設がはじまりません(受精しなかったり、受精しても胚の分割が進まず胎児の発生が始まりません)。
設計図の枚数が足りなかったり、多かったりすると予定通りのマンションを建てることができません(異常を持った胎児が発生します)。
マンションの基礎部分を決めている(土台)設計図がなかったり、壁の強度を決めている設計図がなかったりするとマンションを建設することが出来なくなります(人間の根幹を形作る部分に異常があると流産になる可能性があります)。
内装や廊下の幅をきめている部分の設計図の数が一枚くらい多くても予定とは違うかもしれませんが、マンション自体は立ち上がります(何らかの異常を持ったまま発育し、出生します)。
また、最後のページの枚数が多かったり少なかったりすると外壁の色や玄関を決めている部分に間違いが生じることもあります(外性器の異常などを引き起こします)。
設計図自体の枚数は正しくても、その内容に抜けているところがあったり、間違いがあったりするとこれまた予定とは違ってきますね。
染色体の異常は大きく数的異常と構造異常に分けられます。
設計図にたとえで言うと、前者は設計図の枚数が足りなかったり、多かったりする異常です。
後者は設計図の枚数は同じでも内容に異常がある場合です。
数的異常
両親から染色体を受け継ぎますが、それぞれ1番〜22番染色体と性染色体を持っています。
1番同士、2番同士・・・、22番同士、がペアとなっているのです。
このペアを相同染色体とよんでます。
染色体の中のDNAの個体間(他人同士)の違いは0.1%しかないといわれています。
逆に言うと99.9%は全く同じと言うわけです。
個性の違いは実はほんのわずか情報量なんですね。
1番染色体と2番染色体は全く違いますが、他人同士でも一番染色体同士はほとんど同じものなんですね。
他人同士の父母から生まれる子供の相同染色体はほとんど同じものと考えられます。
染色体の数的な異常はさらに異数性と倍数性の2つに分かれます。
異数性は染色体の本数が1本もしくは2本くらい多いとか少ない場合です。
卵子や精子(配偶子)が作られる時に23本の染色体を持ち寄らず、たとえば母親から24本、父親から23本の染色体を持ち寄って受精が行われると染色体数がが47本となるわけです。
もうすこし細かく言うとたとえば卵子の21番染色体が2本、精子のそれが正常の1本だったとすると胎児は21番染色体が3本となります。
相同染色体が3本の場合をトリソミー、逆に1本の場合をモノソミーといいます。
流産児や死産児の染色体検査ではほとんどすべての染色体において異常が発見されますが、新生児となるとトリソミーは13、18、21番染色体とX染色体の4種、モノソミーはX染色体のみと言われています
(21トリソミーはDown症のことです)。
つまりこれらの染色体以外で数の異常があると、胎児の発育が停止し流産という結果に終わるということです。
統計的に21トリソミーの発生は母体の年齢に依存すると言われています。
その根拠となるのが卵子の年齢です。
精子は元となる細胞が出生後も増殖し、次々と新しい精子が形成されます。
一方、卵子は最初に沢山の卵子が準備されて出生し、それが排卵まで一時休止している状態なのです。
20歳の時に排卵した卵子と、40歳の時のそれとでは20年の時間的な差が生じているわけです。
倍数性は精子とか卵子(配偶子)の基本セットである23本が3倍(69本)だったり4倍(92本)だったりする場合です。
倍数性はあまりにも染色体が多すぎて正常発育をすることができずに、健常児では存在せず、流産胎児,死産児あるいは早期新生児死亡で認められるだけとのことです。
原因は配偶子形成過程の異常と受精の段階での異常があります。
3倍体は通常は1つの精子しか受精しないところを、2つの精子が受精してしまう(2精子受精)などが原因と言われています。
また数的異常は標準型とモザイク型があります。
標準型は体細胞すべての染色体が同じ異常を持つ状態で、モザイクは一人の中で正常な染色体を持つ細胞と、異常と持つ細胞とが共存している状態です。
これは、受精卵における初期の分割の際に生じると言われています。
1つの受精卵が2つ、4つ、8つと分割してゆきますが、例えば、8つのうちの1つに染色体異常が発生し、その後正常な染色体を持つ細胞と、異常な染色体をもつ細胞が同時に分割し発育してゆくといった感じです。
モザイク型の染色体異常は正常な染色体が含まれていますので、標準型と比較して、症状が軽い傾向があるようです。
Turner症候群(性染色体が一本しかないXモノソミー)はこのモザイク型が多いです。
また、モザイク型のDown症は症状が軽いことが知られています。
構造異常
染色体の数は同じでもその内容に異常が生じている場合です。
構造異常は突然変異で発生する場合と親から受け継いで発生する場合とがあります。
構造異常にはいろいろなタイプがありますが、代表的な相互転座について説明します。
前回のマンションの設計図の例えで説明します。
相互転座は4ページ目の下半分に書いてある内容と5ページ目の下に書いてある内容がお互いに入れ替わってしまったという感じです。
つまり、設計図の本来書いてあるべき内容の位置が違っているということになります。
中に書いてある位置が若干違いますが、全体の情報量としては何ら異常はありませんので、完成するマンションも予定通りです。
相互転座を持っていて症状がない人を「相互転座保因者」といいますが、日常生活ではなんら支障はありません。
ただ、不育症のみならず、不妊症や出生児の多発奇形などの重要な要因となることがあります。
保因者の方は全体としては染色体の情報量は同じでも配偶子(卵子や精子)の形成の時に、場合によっては、情報量が足りない配偶子が形成されてしまいます。(正常な配偶子が形成さえることももちろんあります。)
その異常な配偶子と正常な配偶子が受精すると染色体の情報が足りなくなり染色体異常が発生することになります。
表現形(表面に現れる形態)としては全く正常なカップルでも、一方が保因者であると場合によっては染色体異常が発生することになります。
習慣性流産などの精密検査でカップルの染色体検査のお話がでることがあるのはそんな訳です。
一般集団よりも習慣性流産や不妊症の方では染色体異常が高率に検出されるのは事実です。
ダウン症のほとんどは前述した標準型21トリソミーですが(90%以上)、モザイク型と今回説明した転座型が数%あるようです。
染色体異常と流産
染色体異常の頻度は体外受精などの余剰胚や流産児の染色体異常の検査などでわかってきました。
精子の染色体異常は15%くらい、卵子は25%くらい(年齢的なバイアスが入っています)、受精の段階で8%くらい、受精卵の分割時の異常(モザイクなど)も含めると全ての妊娠のうちの50%くらいは染色体異常と言われています。
これが出生児の染色体異常になると0.5%くらいの頻度になりますので、非常に早い段階で流産してしまう気づかない妊娠も含めると、かなりの数の染色体異常が自然淘汰されていることになります。


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