胎児付属物
子宮は胎児を育てる場所ですが、胎盤などは作ってくれないので、胎児は自分が育つために必要な環境を自分で作る必要があります。この環境を形成する構造物には以下のようなものがあります。
母体からの栄養や酸素を受け取り、老廃物を母体へ返す、物質交換の場である
「胎盤」
胎盤から胎児へ酸素や栄養の輸送を行う「臍帯」
胎児の発育するスペースを確保する「羊水」
胎児や羊水を包んでいる「卵膜」
これら、卵膜、羊水、臍帯、胎盤を胎児付属物といいます。
胎児付属物はもとは一つの受精卵から分化したもので子宮が作り出したものではないんですね。
胎盤
胎児は自分でご飯を食べることができませんので、発育していくためには母体から栄養をもらわないといけませんね。
自分で呼吸もしないので酸素ももらう必要があります。
また、老廃物も排泄しないといけません。(胎児は排尿しますが、普通は排便はしません)
母体が食べた栄養分や肺呼吸で得た酸素はへその緒(臍帯)を介して胎児に供給されます。
臍帯の胎児側は胎児のおへそにつながっているのはわかりますが、母体側はどこにつながっているのでしょうか?
へその緒は子宮から直接生えてるのでしょうか?
臍帯の母体側は胎盤(たいばん)につながっています。
胎盤はちょうどホットケーキのような形、大きさをした臓器です。
一般的には胎盤の中央から臍帯が生えています。
胎盤は母体が作り出すものではなく、受精卵が作り出した胎児の付属物です。
付属物とは言えないくらい重要な役目をもっています。
妊娠継続のために沢山のホルモンも分泌する内分泌臓器でもあります。
誤解されやすいのですが、子宮の中に直接胎児が入っているわけではありません。
(私も医学部で勉強する前は直接胎児がおさまっていると思っていました・・・)
卵膜という膜の中に胎盤と臍帯、羊水、胎児がおさまっています。
母体が得た栄養や酸素は母体の血液の中に含まれて子宮動脈を介して、子宮に注がれます。
母体血が子宮の内側まで来るとそこに胎盤があり、胎盤の表面(子宮の内腔と胎盤の母体面とが接しているところ)で母体からの栄養や酸素と胎児からの老廃物や二酸化炭素が交換されます。
そうして胎児は息をせずとも、ご飯を食べずとも大きくなれるんですね。
ほんとに良くできた仕組みです!
母体血と胎児血は基本的には混じることがない別の空間にあります。
薄い膜を介して母児の物質やガスの交換が行われます。
決して母体の血液が直接胎児に流入しているのでは無いんです。
だからお母さんと赤ちゃんの血液型が違うということも起こりえるわけですね。
赤ちゃんが生まれてくる時には卵膜を破って破水して、胎児が出てきて分娩となります。
生まれても、栄養をもらっていた臍帯はまだつながっていますので、臍帯を切断して母児を分離します。
この後後産といって、胎盤と胎児を包んでいた卵膜が排泄されて初めて分娩が終了となるのです。
経産婦さんの中にはあまりにも安産で破水せずに卵膜に包まれたままの赤ちゃんが胎盤もろとも出生することがあります。
「自宅で生まれてしまって呼ばれた時ですが、私が駆けつけた時は赤ちゃんが膜のなかでもぞもぞ動いていたので、あわてて膜を破って取り出しました。」なんて救急隊員のお話もあります。
話がそれてしまいましたが、はじめは1つだった受精卵が分裂して胎児になりますが、すべて胎児になるわけではなく、胎児に栄養を供給する仕組みに分裂していく細胞(胎盤や臍帯)や胎児を包んでいる膜(卵膜)に分裂する細胞もあるんです。
受精卵が子宮内膜に着床すると子宮内膜に根を下ろし始め、すぐに母体から栄養を得ようとします。
この根の働きをする部分を絨毛(じゅうもう)と呼んでいます。
流産の時などに肉眼的に見る機会がありますが、非常に細かい絨毯の毛羽立ちのような感じです。
この絨毛が後には胎盤へと変化します。
着床すると絨毛組織からヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(human Chorionic Gonadotropin=hCG)がすぐに分泌され妊娠継続に重要な働きをします。
このホルモンの数値は活発な絨毛組織の増殖を表しており、絨毛組織の量に比例して急速に増えてゆきます。
妊娠反応検査はこのホルモンを検出して判定しているわけですね。
逆に胎児が存在していなくても、絨毛組織が存在して活発に増殖していると、hCGが分泌されるので妊娠反応が陽性となります。
「胞状奇胎」という病気がありますが、これは胎児が存在していなくても絨毛組織だけが異常に増殖するという病気です。絨毛組織からhCGが分泌されるので尿での妊娠反応は陽性となります。胞状奇胎は胎盤の異常なんですね。
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臍帯(へその緒)
「へその緒」のことを「臍帯」といいます。
母体から栄養をもらい成長する哺乳動物である証ですね。
胎盤と胎児をつないでいる管で個人差がありますが、長さは50〜60センチくらいで太さは大人の中指くらいです。
臍帯の内部には3本の血管がありますが、血管がむき出しになっているのではなく、血管の周囲には軟らかい組織が取り巻いています。 (触るとこんにゃくのようにぷりぷりしています。)
3本の血管は1本の太い臍静脈と2本の細い臍動脈で構成されています。
太い臍静脈が母体から胎児への流れで、栄養や酸素をふくんだきれいな血液(動脈血)が流れています。
細い臍動脈が胎児から母体への流れで、老廃物や二酸化炭素をふくんだ血液(静脈血)が流れています。
一般的には動脈には動脈血が流れているのですが、臍帯の血管は逆なんですね。(これは医学部の試験によく出てます(^o^))
胎盤は血管の固まりです。
まさに木の根のように沢山の血管が集合して最終的には臍帯につながる3本の血管になります。
3本の血管はねじれながら走行しています。
固定電話の電話機が胎盤で、受話器が胎児とするとその間のぐるぐるまきのコードのような感じです。
ねじれていると言うことは伸縮性があり、また圧迫に強いという利点があります。
超音波検査で臍帯の断面をみると三つの穴が見えてまるで口を開いた顔のようです。
胎児を見る時にぜひ臍帯を見せてもらってください。
超音波検査のドップラーモードという機能で血液の流れをみて赤ちゃんの元気の良さを予想することもあります。
臍帯の異常
臍帯にはいろいろな異常があります。
1.5センチくらいの臍帯で赤ちゃんは酸素化されているのでまさに命綱です。
ほんのちょっとしたトラブルが赤ちゃんの死に直結する可能性は想像しやすいかと思います・・・。
(胎児が子宮の中で苦しくなっている状況を「胎児仮死」と表現していましたが、適切ではないので最近では「胎児ジストレス」と表現しています。しかし、ここではまだ胎児仮死の用語を使います。)
胎盤から臍帯が生えている位置の異常(付着の異常で辺縁付着、卵膜付着など)
普通は臍帯は胎盤の中央もしくは中央から少しずれた位置から生えています。
それが胎盤のぎりぎりはじっこから生えていることを辺縁付着といいます。
さらに胎盤から完全にはずれて周囲の卵膜から生えていることを卵膜付着といいます。
これらの臍帯付着異常があると血流が悪くなり赤ちゃんが大きくなれなかったり、分娩時に臍帯が圧迫を受けやすく胎児仮死となったりする可能性が高くなります。
臍帯の付着部位は妊娠初期に経膣超音波検査で確認しておくことが大切です。
発見しても治療はできませんが、分娩の時に心の準備ができます。
臍帯血管の数の異常(単一臍帯動脈)
通常は2本ある臍帯動脈が一本しかない異常です。
臍帯の血管が最初から2本しか作られなかった場合と、途中で1本が退化してしまった場合があります。
ほとんどがなにも症状がありませんが、単一臍帯動脈には他の奇形を合併する頻度が高く、臍帯の異常から心臓の奇形が発見されることもあります。
臍帯のねじれの異常(臍帯過捻転など)
臍帯はらせん階段の様に捻れていますが、ねじれすぎるている異常(過捻転)とねじれがほとんど無い異常(過少捻転)があります。
どちらでも血流が低下しやすく胎児仮死の原因になりえます。
臍帯が結ばれてしまった異常(真結節など)
真結節は結び目のことです。
臍帯はひも状なので胎児の動きによって結び目ができてしまうことがあります。
緩く結び目ができるのは何の影響もありませんが、きつく結ばれてしまうと血流が遮断し胎児仮死、もしくは突然の胎児死亡となることもあります。
超音波検査でもなかなか発見はされず、分娩後に臍帯を観察してわかることがほとんどです。
赤ちゃんの首や胴体に巻き付いている異常(臍帯巻絡)
これはよく見かけます。
首や肩に臍帯が巻いている状態です。
一般的には一回巻いていることが多いのですが、3回くらい首に巻いていて、そのため臍帯のフリーの部分が短くなりなかなか分娩が進行しない(赤ちゃんが降りてこない)こともあります。
臍帯が赤ちゃんよりも先に膣の中に出てきてしまった異常(臍帯下垂、臍帯脱出)
臍帯は赤ちゃんが出てから出てくるものです。
ときには臍帯が赤ちゃんの頭の下に滑り込んで臍帯が赤ちゃんよりも先に降りてくることがあります。
破水前だと臍帯下垂、破水後だと臍帯脱出といい、私たちがもっとも大急ぎで帝王切開を行う必要がある状態です。
完全に臍帯が膣の中にでてその後赤ちゃんの頭が下がってこようとすると命綱である臍帯を完全に圧迫、血流遮断して数分で胎児死亡となります。
どうですか?
臍帯だけでもこれだけの異常があるんです。
これであなたも「臍帯博士」です。
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羊水
卵膜の一番内側の膜である羊膜(amnion)は羊膜腔という空間を作りその中に羊水(amniotic fluid) を蓄えています。
妊娠のごく初期は羊膜の表面の細胞で作られますが、後に羊水は母体からの水分の供給、胎児尿、胎児の気道からの分泌液で構成されるようになります。
羊水量の変化
妊娠11週ころからは胎児は尿をするので羊水の量がぐんぐん増加してきます。
10週頃は30ml、20週で350ml、32〜36週くらいがピークで、700〜1000mlほどになります。
その後は徐々に減少し40週ころは500mlほどになるといわれています。
最後まで量が増加するのではありませんね。
それで妊娠後期になると超音波検査で胎児の顔などがはっきり見えなくなります。
羊水の循環
羊水は同じものがずっとたまっているわけではありません。
約3時間で完全に新しいものになっているといわれています。
大量の水分がつねに羊膜絨毛膜を通過して母体の循環系に戻されているわけです。
胎児は尿を作り出しそれを羊膜腔内に排泄しています。
また、胎児は羊水を1日400mlほど飲み込んでいるらしいです。
このように作られる量と母体に戻される量が釣り合って見かけ上一定の量に保たれています。
羊水の成分
羊水の99%は水分です。
そのほか剥がれた胎児の皮膚細胞や胎脂(胎児の皮膚表面の脂肪)などが浮遊しています。またいろいろなホルモンなども含まれています。
妊娠が進むと胎児の尿の成分がふくまれ内容が変化してきます。
羊水はアルカリ性なのでアルカリ性を検出する試験紙などで破水かどうかを診断する補助になります。
羊水には胎児の細胞が含まれているので、皮膚を通して羊水を採取すること(羊水穿刺)で性別やダウン症などの染色体異常を発見することが可能となります。
羊水の存在意義
羊水はとても大切な役目をしています。以下に列挙してみます。
・胎児の左右対称的な外見上の発育が可能
・感染の関門
・肺の良好な発育が可能
・羊膜との癒着防止
・緩衝材としての役目
・体温維持
・四肢の筋肉の発達が可能
・分娩時の潤滑液としての役割
・分娩時の洗浄液としての役割
羊水という隙間があるので、胎児はふわふわ浮いているので発育の過程で左右偏りがなく発育します。
角化前は胎児の皮膚と羊膜がぺたぺたと癒着しやすい状態にあります。それを防ぐ役目もあります。
また、自由に動き回れることで手や足の筋肉が発達します。
卵膜は隔壁の役割をしていますが、何らかの理由で進入した感染からの直接の感染を防ぐ働きも羊水にはあります。
胎児の時は肺呼吸をしていませんが、出生後すぐに肺呼吸をする必要があります。
肺はとてもとても小さな袋が沢山集まってできています。
スポンジのような感じの臓器です。
肺が発育するためにはゆったりとしたスペースと十分な水分が必要です。
羊水は出生時、胸部の圧迫で気管を通って口から排泄されます。排泄されなかった肺液は速やかに肺の細胞に吸収されてゆきます。
母体は歩いたり寝ころんだりしてつねに動いています
羊水があることでショックが和らげられますね。
これはとても大切な役割の一つです。
人肌のお風呂の中に使っている状態が羊水中の胎児です。
水分が存在することで急激な温度変化を防いでくれています。
また分娩中に破水することで、膣内の細菌を洗い流す働き、また分娩中の膣内での滑りをよくする潤滑液としての役割もあります。
羊水量の異常
羊水は週数でもその量が違いますが、個人差も大きいです。
実際の量を測定することは不可能なので、超音波検査を使って、羊水の量を推定しています。
数値化する基準があり(AFI)、その基準よりも多すぎても、少なすぎてもいけません。
羊水の量が多すぎたり、少なすぎたりすることで生じる弊害もありますが、なぜ、異常な羊水量となったのか、という原因も大切です。
羊水量の異常から、逆に胎児の異常が発見されることもあります。
羊水の量が少なくなり何らかの症状が出ることを羊水過少症、逆に多すぎることを羊水過多症といいます。
羊水過少症
羊水が少なくなるのは以下のような時です。
・胎盤機能不全で胎盤の血液の流れが少なくなるとき
・早期破水となり、漏れることで減少するとき
・胎児の尿産生が減少したとき
胎盤機能不全はいろいろな原因で起きます。
妊娠高血圧症候群(旧妊娠中毒症)も原因の一つですが、原因がはっきりしないとも多いものです。
破水はじゃばっと一気に流れ出てしまうこともあれば、小さな穴でじわじわと流れ出しいつの間にか羊水の量が減っているということもあります。感染を伴うこともあり、状況によっては出産を急ぐ必要もあります。
胎児の腎臓の機能が落ちていたり、尿路がどこか詰まっていたりして尿が羊水中に排泄されないと、羊水は少なくなります。
羊水の減少から腎臓が欠損や低形成(発育が悪く小さい腎臓)が発見されることもあります。
胎児の発育の初期で羊水が少ないと、羊水の意義でも書いたように大切な肺の形成がうまくいかない肺低形成を引き起こします。
体はある程度発育しても、肺がちゃんと形成されないので、生まれても予後が厳しいこともあります。
そのため、生理的な液体を人工的に羊水腔内に注入し、スペースを確保する治療が行われることもあります。
羊水過多症
半数以上が原因が不明といわれています。
分かっている原因の一つに消化管の閉鎖などの胎児異常があります。
食道閉鎖などの先天的な異常があると、飲み込んだ羊水が胃や腸まで達することができずに吸収されないので羊水の量が増えてゆきます。
また、無脳症などに代表される中枢神経系の重度の異常があると髄液が羊水中にどんどん漏れだし、羊水が貯留します。
羊水が多すぎることで、胎児の発育に問題は出ませんが、子宮が週数よりも大きくなり、早くから陣痛が発来して切迫早産や早産となる可能性があります。
あまりにも多すぎる羊水は、母体のおなかの皮膚を通して針を刺し羊水を抜いて適切な量にすることもあります。
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卵膜
胎児は卵膜という閉じた袋状の膜の中にいます。
卵膜は3枚の膜を重ねて作られています。
胎児側(内側)から羊膜、絨毛膜、脱落膜といいます。
厳密にいうと一番外側の脱落膜だけ母体成分です。
もとは子宮内膜で、それが脱落膜へと変化したものなんです。
胎児が出生した後、胎盤や卵膜も子宮からでてきますが、卵膜の3枚膜のうち脱落膜の層ではがれることになります。
卵膜は外界と胎児を隔離しているバリアーですね。
細菌の進入や羊水の保持のためにとても重要な膜です。
この膜が破れて、羊水がそとへ流出することを破水といいます。
破水の時期は分娩直前が適しています。早く破水が起きることを早期破水や前期破水といいます。
早すぎる破水はバリアーが無くなるのでいろいろな問題が発生してくることは想像しやすいと思います。
卵膜は非常に薄い膜で分娩直前には卵膜を通して、膣から胎児が透けて見えます。


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