パピローマウイルス
ヒトパピローマウイルスについて
子宮頚癌は性交頻度、性交開始年齢、性交のパートナーの数などでその発生頻度が違うことから、癌の発生に何らかの媒介者の存在が予想されていました。
今ではその媒介者が「ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)」であることがわかっています。
子宮頚部のS-C junctionにこのウイルスが感染して、子宮頚部の表皮細胞の分裂秩序を乱して子宮頚癌を発生させます。
HPVはDNAウイルスで主に皮膚や粘膜に感染してイボや腫瘤の形成します。
その亜型は100種類以上が確認されています。
すべてのタイプが癌を発生させる訳ではありません。
タイプにより腫瘤が発生する場所や病気の名前も違ってきます。
皮膚の小さな傷などからウイルスが侵入して良性のイボを形成するタイプは1型や2型などです。
膣粘膜に感染して「尖形コンジローマ」という性病を発生させるタイプは6型や11型です。
子宮頚部に癌を発生させるものは16型、18型,31型,33型,52型,58型などです。
HPVワクチンについて
☆子宮頸がんワクチンは何を予防するのでしょうか?
子宮頸癌の主な原因となっているヒトパピローマウイルス(HPV)が子宮頸部の細胞に感染する前に感染をブロックする効果があります。
注意すべき点は既に感染が成立してしまったものを治療するワクチンではないということです。
あくまでも細胞に感染する前を予防するという点です。
ワクチンの中にはウイルスDNAを持たない人口のウイルス粒子が入っています。
この粒子の異物性に対して、投与された人体が抗体を形成します。(抗原抗体反応)
これが中和抗体となって、後に本物のHPVが体に侵入したときに攻撃を加えます。
つまり、HPVが体内に侵入しているがまだ子宮頸部の細胞に感染する前に、HPVがやっつけられます。
結果的に、HPVの感染を予防することになります。
この仕組みを理解すると、既に子宮頸部の細胞に感染したウイルスをやっつけることができないことがわかりやすいと思います。
子宮頸癌の原因ウイルスが16型、18型が多いのでこれらの感染が予防できれば、子宮頸癌の50〜70%を予防することが可能といわれています。
☆現在日本で接種可能なワクチンは?
現在日本で接種可能な承認されたワクチンは「サーバリックス」のみです。
(2010年12月現在)
HPVは一種類ではなく、非常にたくさんの種類があります。
性器に感染するHPVは約30種類知られており、そのうち子宮頸癌に関与するものは15種類くらいといわれています。
子宮頸癌患者から最も多く検出されるのがHPVの16型というもので、次が18型です。
この2種の型が子宮頸癌の50%から70%を占めるといわれていてサーバリックスはこの2種の型のHPVの感染を予防します。
時期に日本でも承認されるであろう、「ガーダシル」というワクチンはこの2種の型のHPVに6型、11型のHPVの抗原を追加したものです。
6型、11型は主に尖圭コンジローマの原因ウイルスです。
☆ワクチンの接種対象は?
接種が最も推奨されるのは10〜14歳の女性です。
つまり、まだ性行為を経験する前の年代ということですね。
前述しましたが、HPVは性交渉をすることで感染するウイルスですので。
では、それ以外の年代の女性はこのワクチンを接種する意味がないのでしょうか?
理論的には上記の16型、18型のウイルスに感染していなければ、既に性交渉があったとしてもワクチンの効果が期待できます。
16型、18型両方感染している方は中々いないので、ワクチンを接種することで未感染のHPVが原因となる異形成やがんなどの予防効果は期待できます。
ただ、何度の書きますが、既に感染が成立している型には効きません。
また、妊娠中の安全性は確立されていないので現時点で妊婦は接種できません。
3回投与する6ヶ月の間に妊娠が成立した場合は以後のワクチン接種は分娩終了後に行います。
☆ワクチンの接種方法、費用?
肩にある三角筋という筋肉に投与する筋肉注射です。
6ヶ月の間にワクチンを合計3回投与します。(0、1、6ヶ月)
費用は日本では3回接種の診察料や手技料をこみで、5万円ほどが多いのではないでしょうか。
現在、一部の自治体で公費補助が行われていますが、これが全国的に公費補助となるかどうかは現在未定です(2010年12月現在)
☆接種後は?
現在のワクチンがすべての子宮頸癌を予防する訳ではないのでワクチン接種後でも子宮頸部がん検診はとても重要です。
HPVワクチン接種後にインフルエンザなど他のワクチンを接種する場合は7日ほど間をあけたほうがよいようです。
逆に他のワクチン接種を受けてからこのHPVワクチンを接種する場合は、前に受けたのが生ワクチン(風疹、麻疹、水痘など)の場合は28日以上あけて、不活化ワクチン(インフルエンザ、B型肝炎など)の場合は7日以上あけて接種すべきとされています。
HPV検診のこと
HPVのタイプにより癌化の確率が変わってきますので、がん検診にどんなタイプのHPVが感染しているかを調べることでより精度の高い検診ができると考えられています。
HPV検診を子宮頚部細胞診に併用することでほとんどもれなく、子宮頚部の異常所見を検出できるといいます。
一部の自治体は試験的にこのHPV検診もオプションで併用していると聞きますが、費用的な問題ですべて公費で行われるのはなかなか困難かと思います。
具体的には通常のがん検診である子宮頚部細胞診を行い、軽度異常が出た例に対してHPV感染のタイプを調べるという方法があります。
ここで、より癌化しやすい16型や18型の感染がある場合には「要注意」として、通常より頻回管理を行うというものです。
また、逆に癌化の可能性が低いタイプの感染であれば、その後のチェックの回数を減らすことも可能と思われます。
子宮頚部の細胞診異常がでて、定期的なフォローを行われている方は一度チェックを受けておくとよいですね。
HPV感染は実は多いんです
子宮頚癌患者ではHPVの感染率は90%以上といわれています。
しかし、驚くべきことにがん検診で異常がない健常女性の平均10%くらいの頻度でこのウイルスの感染者が見つかるといいます。
健常女性の年齢別の感染率をみると20歳代で20%ほどあり、30〜80歳代では10%位で推移しているというデータがあります。
これは非常に興味深い事実を表しています。
つまり、HPVは特殊な状況でしか感染しないのではなく、性交渉により比較的簡単に、誰でも感染しうるという事実です。
性交渉によりいろいろなタイプのHPVが感染しても、その多くは免疫学的な機構により排除されていると考えられます。
しかし、感染者の免疫力や性交渉回数、性交渉パートナーの数、性交渉開始年齢などは、違いがあり子宮頚癌の発生頻度に差が出てきます。
より早い年齢から性交渉を開始し、しかも不特定多数のパートナーがいる場合は「確率的に」発生頻度が上昇する可能性があります。
(女性側から見て相手は一人の男性でも、男性側が不特定多数のパートナーが存在すると確率は上昇するかもしれません)
上記以外にも、どのタイプのHPVが感染しているかということも、重要なことです。
性交渉の回数は少ないとしても、たまたま、癌化を促すタイプのHPVが感染していると子宮頚癌の発生頻度は上昇すると推測されます。
HPV感染が起こり、排除され、また感染し、排除されというのを繰り返されているわけですが、感染回数が多くなると排除されずに残ってしまう可能性やより癌化しやすいタイプのHPVが感染する可能性が高くなるというのは、感覚的にわかりやすいかと思います。
子宮頚部にHPVが感染して、すぐに子宮頚部細胞診で異常が出るわけではありません。
長いと数年経過して異常として出てくるので、現在の性交渉のパートナーからもらってきたとは限らないのです。
以前おつきあいしていた方からもらって、長い間感染が持続していた可能性も十分にあるんです。
がん検診で異常が出たとなるとHPVのことをご存じの方は「ダンナがどこかで遊んできたのでは!」と詰め寄られる方もいらっしゃいますが、かならずしもそうでないということも付け加えておきます・・・。
子宮頚癌発生のメカニズム
1.HPVの子宮頚部への感染
子宮頚部の扁平上皮のもっとも底の部分に、扁平上皮を作り出す細胞(基底細胞)が存在しています。
基底細胞が細胞分裂を繰り返して、わき水が湧いてくるように扁平上皮の新しいもの上の層へ上の層へ、せり上がってきます。
分裂で作られた扁平上皮自体は分裂する能力はないので、子宮頚部に異常な細胞分裂がおきるためにはこの基底細胞にHPVが感染する必要があります。
S-C junctionから内側は腺上皮である円柱上皮が存在し、子宮頚部の中心付近は肉眼的に見ると口内炎のように表面の皮が一枚むけたようになっています。
この部分は「偽びらん」といわれています。
正式なびらん状態ではないのですが、表面が外的要因にたいして弱い場所でもあります。
(性交渉の時にこの部分に、ペニスの先端がが当たり軽い出血をみることがあります)
この偽びらんと扁平上皮の境界にS-C junctionがあり、構造上、基底細胞が表面に露出したようになっているので、HPVが感染しやすくなっています。
性交渉によりHPVが男性のペニスに乗っかり、女性の膣内に運ばれてきます。
前回までにお話ししたように、性交渉によりHPVは比較的多く膣内に運ばれている可能性があります。
しかし、その多くは感染が成立しないか、成立しても免疫力により排除されていると考えられます。
子宮頚部ではHPV相手に戦いが起こっているんですね。
その戦いの中で、宿主の免疫力が弱かったり、感染が次から次へと繰り返し行われたり、より癌化しやすいタイプのHPVが持続すると悪い方向へと傾いてゆきます。
2.基底細胞でのHPVの増殖
前述した基底細胞にHPVが感染し、その細胞の中の遺伝子に悪影響をあたえ、扁平上皮を異常増殖をさせるようになります。
この基底細胞(感染した細胞)の異常増殖とともに比較的長い時間をかけて、HPVのDNAは増殖されてゆきます。
HPVからすると、自分だけでは自己複製出来ないので、細胞の増殖に便乗して自己のDNAをどんどん増やしてゆくことは、ウイルスにとってごく当たり前の行為なんです。
人間からすると厄介なことですが・・・。
こうやってHPVは自分のコピーを沢山増やし、今度は感染した周囲の細胞に次々に進入し、さらに自己を増やして行きます。
ここまでくると多数のHPVが子宮頚部に存在するようになり、性交渉のときに今度は女性側から男性側にHPVが感染します。
男性のペニスにコンジローマが発生したり、男性を介して、別の女性にHPVを感染させてしまうということになります。
このようにしてHPVは人間の性交渉を利用して、人間界に蔓延していったわけですね。
3.腫瘍性病変の出現
HPVは人間に癌を発生させ苦しめようと意図してやっているのではありません。
自己複製する方法が、結果的には子宮頚部の細胞の異常増殖を引き起こしているだけです。
HPVのために増殖に利用された扁平上皮細胞は、増殖の抑制がきかなくなってその数を増やしてゆき、そのうち腫瘍を形成します。
これら細胞は顕微鏡で見ると正常とは違う形態をしています。
細胞の数が増えてくると、子宮がん検診で異常細胞として検出され、「異常な細胞が出現してるぞ!」となるわけですね。
さらに増殖が進んで子宮頚部の正常組織を破壊したり、出血などの症状を起こすようになると「子宮頚癌」として診断されるようにもなります。
一般的には子宮頚部にHPVが感染してから癌になるまでは数ヶ月ではなく、数年以上かかると言われています。


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